クリストファー・ノーラン監督ほど、「時間」というテーマにこだわり続けてきた作家はいないと私は思います。記憶を逆回しにしたり、夢の中に階層を作ったり、時間の流れそのものを逆転させたり――難解に見えて、観るたびに新しい発見がある作品ばかりです。たとえば『メメント』では記憶を、『インセプション』では夢を、『テネット』では時間そのものを操作の対象にしています。
もうひとつの特徴は、CGに頼らず実写・実物にこだわる撮影スタイルです。本物の飛行機を落とし、爆発も可能な限り本物を使う「体感させる映画」としての一貫性が、デビュー作から最新作まで途切れずに貫かれています。
クリストファー・ノーラン監督の映画作品一覧
クリストファー・ノーラン監督の映画作品をデビュー作から最新作まで、時系列順でご紹介します。
フォロウィング (1998)
モノクロ撮影・低予算で撮られた長編デビュー作です。時系列をバラバラに再構成する語り口はすでに強烈で、後年の「記憶」「時間」をめぐる作家性の原点がここに凝縮されています。派手さはありませんが、ノーラン監督のルーツを知るなら外せない一本です。Rotten Tomatoesでも76%と高評価を得ており、低予算でも骨太な脚本力が伝わってきます。
メメント (2000)
短期記憶を保持できない主人公が、記憶の代わりにポラロイド写真とタトゥーを頼りに妻の復讐を遂げようとする物語です。時系列を逆順に配置する構成が話題を呼び、アカデミー脚本賞にもノミネートされました。弟ジョナサン・ノーランの短編小説が原作になっている点も見逃せません。ガイ・ピアース演じる主人公の記憶障害と、キャリー=アン・モス演じる女性との駆け引きも見どころです。
インソムニア (2002)
ノルウェー映画のリメイクで、アル・パチーノ演じる刑事が白夜のアラスカで眠れぬまま追い詰められていくクライムスリラーです。ノーラン監督としては珍しくオリジナル脚本ではありませんが、罪悪感と不眠が交錯する心理描写に監督らしい緊張感が宿っています。ロビン・ウィリアムズが演じる犯人との心理戦も見応えがあります。
バットマン ビギンズ (2005)
『バットマン&ロビン』での評価低迷を受け、シリーズを一から再構築した一作です。クリスチャン・ベイル演じるブルース・ウェインの成長と葛藤を丁寧に描き、荒唐無稽だったヒーロー映画を現実的な手触りのドラマに引き戻した意義は大きいと思います。マイケル・ケイン演じる執事アルフレッドとの関係性が、シリーズ全体の情緒的な軸になっています。
プレステージ (2006)
ヴィクトリア朝ロンドンを舞台に、クリスチャン・ベイルとヒュー・ジャックマン演じる2人の奇術師が互いを陥れ合う物語です。脚本自体が観客を欺く「手品」のような構造になっていて、種明かしのされ方まで含めてノーラン監督の企み好きな一面が存分に発揮された一本です。マイケル・ケインが狂言回しを務め、スカーレット・ヨハンソンも重要な役どころで登場します。
ダークナイト (2008)
シリーズ随一の傑作であり、ヒース・レジャーが演じたジョーカーは没後にアカデミー助演男優賞を受賞しました。IMAXカメラを長編映画で初めて本格的に使った作品でもあり、ヒーロー映画をクライムドラマの領域まで引き上げた一本だと私は思います。興行収入は10億ドルを超え、当時のシリーズ最大のヒット作になりました。
インセプション (2010)
他人の夢に侵入して企業秘密を盗み出すという、完全オリジナル脚本のSFアクションです。夢の中に何層もの夢を重ねる構成は複雑に見えて筋は一本道で、初見でも十分に楽しめます。撮影・視覚効果など技術部門で4冠を獲得した完成度の高さも折り紙付きです。エリオット・ペイジやマリオン・コティヤールら実力派が脇を固めている点も見逃せません。
ダークナイト ライジング (2012)
バットマン三部作の完結編で、トム・ハーディ演じるベインとアン・ハサウェイ演じるキャットウーマンが新たに加わります。前2作の伏線を丁寧に回収しながら、大規模な実写アクションで幕を引く堂々たるクロージングです。興行収入は三部作最高の10億ドル超えを記録し、有終の美を飾りました。
インターステラー (2014)
荒廃していく地球を離れ、人類の新天地を探す宇宙探査の物語です。ブラックホールの映像は物理学者キップ・ソーンの理論をもとに計算・再現されたもので、父と娘の間に生じる時間のズレを描く終盤の展開はノーラン作品屈指の感情の揺さぶりがあります。マシュー・マコノヒーとアン・ハサウェイが主演を務め、アカデミー作品賞にもノミネートされました。
ダンケルク (2017)
第二次世界大戦のダンケルク撤退作戦を、陸(1週間)・海(1日)・空(1時間)という異なる時間軸を交差させながら描く戦争映画です。台詞を極力削ぎ落とし、音と映像だけで緊迫感を伝える作りは、ノーラン監督にとって初めての史実ものならではの挑戦だったと思います。アカデミー監督賞・作品賞にノミネートされ、演出力が改めて評価された一作です。
テネット (2020)
時間の流れそのものを逆転させる「インバージョン」という発想を軸にしたスパイアクションです。新型コロナ禍の公開という不運も重なり興行的には苦戦しましたが、順再生と逆再生が同一画面上で交錯する撮影・編集の実験性はノーラン監督らしい挑戦だと感じます。ジョン・デイヴィッド・ワシントンとロバート・パティンソンが主演を務めています。
オッペンハイマー (2023)
原子爆弾の開発を主導した物理学者ロバート・オッペンハイマーの半生を描く伝記ドラマです。65mmフィルムを用い、IMAX史上初めてモノクロ撮影にも挑戦しました。アカデミー賞では作品賞・監督賞をはじめ計7部門を受賞し、ノーラン監督の集大成というべき評価を得ています。主演のキリアン・マーフィーはアカデミー主演男優賞も受賞しました。
どの作品から観るべきか
初めてノーラン監督の作品に触れるなら、単体で分かりやすく満足度も高い『インセプション』か『ダークナイト』から観るのがおすすめです。頭を捻る面白さを味わいたい方は『メメント』が最短ルートだと思います。
バットマン三部作は公開順(『ビギンズ』→『ダークナイト』→『ライジング』)で観ることで人物の成長がより伝わります。最新作から入りたいなら、アカデミー賞7部門受賞の『オッペンハイマー』も良い入り口になるはずです。実話に基づく作品とオリジナル脚本のSF作品を行き来しているのも、ノーラン監督ならではの面白さだと思います。
この記事のまとめ
- ✓ デビュー作フォロウィングから時系列でノーラン監督作品を紹介
- ✓ メメントはアカデミー脚本賞ノミネートの逆順構成が話題
- ✓ ダークナイトのジョーカー役でヒース・レジャーが没後に受賞