『ANNA/アナ』は、リュック・ベッソン監督によるアクションスリラー映画です。表向きは美しいモデル、しかしその裏の顔は冷酷な暗殺者という複雑なキャラクターが描かれます。評価は5点中3点で、スタイリッシュな映像とアクションシーンが高評価ですが、物語の展開にやや物足りなさを感じる人もいるかもしれません。
この記事は、前半をネタバレなしの感想、後半を「ここからネタバレ」の合図から始まる考察という二部構成にしています。まだ観ていない方は前半だけで判断材料は十分揃いますし、鑑賞後にまた戻ってきて後半の考察を読んでいただくのもおすすめです。
映画の情報

| 映画名 | ANNA/アナ |
| 監督 | リュック・ベッソン |
| ジャンル | アクション / スリラー |
| 上映時間 | 119分 |
| 公開日 | 2019年 |
| 評価 | 5点中3点 |
リュック・ベッソン監督は、『ニキータ』のニキータ、『レオン』のマチルダのように、庇護される側だった女性がやがて牙を剥く暗殺者へと変貌していく物語を繰り返し撮ってきた作家です。アナ・ポリアトヴァもこの系譜に連なる主人公で、モデルという"見られる存在"の裏に暗殺者という"見る側"の顔を隠しているという二重性は、監督のフィルモグラフィーを知っていると一段と味わい深くなります。
あらすじ
1985年のモスクワ。アナ(サッシャ・ルス)はスカウトされモデルとしてのキャリアを歩むが、その正体はKGBの暗殺者。自由を求めてCIAとの接触を図る彼女は、二重スパイとして命をかけた危険なゲームを繰り広げることになる。
感想と見どころ

1. スタイリッシュな映像美
映画全体を通して、美しいビジュアルと洗練されたアクションシーンが魅力的。特にパリやモスクワを舞台にしたシーンは映画的な美しさが際立っています。
特に効いているのが、色調の使い分けです。モスクワの回想パートは青みがかった硬質な光で撮られる一方、パリのランウェイやパーティーのシーンは暖色の華やかな照明に切り替わります。同じ主人公の"表の顔"と"裏の顔"を、セリフではなく光の色温度だけで語り分けている点に、ベッソン監督らしい映像設計のこだわりを感じました。
2. 主演サッシャ・ルスの存在感
主演のサッシャ・ルスがモデル出身という設定を活かし、華麗なルックスと冷酷な暗殺者の一面を見事に演じています。
モデル出身という経歴は伊達ではなく、歩き方や視線の運び方だけで"見られることに慣れた人間"の空気を出しつつ、次の瞬間には表情筋をすっと落として無感情な暗殺者の顔に切り替える。このオン・オフの速さこそが、事実上のハリウッド初主演としては驚くべき完成度だと感じます。
3. 複雑なスパイの駆け引き
KGBとCIAの間で繰り広げられる二重スパイの駆け引きがスリリング。観客を最後まで引き込む緊張感があります。
この映画のもう一つの特徴が、時系列を大胆に前後させる編集です。ネタバレなしの範囲でお伝えできるのは、同じ場面が後になって別の角度・別の意味で再提示される瞬間があるということだけ。この仕掛けについては、記事後半のネタバレ考察でじっくり掘り下げます。
こんな人におすすめ/おすすめしない人
スタイリッシュな映像とスパイアクションが好きな方、時系列を入れ替える構成のミステリーが好きな方には特におすすめです。逆に、登場人物の心情をじっくり掘り下げる人間ドラマを求めている方には、やや物足りなく感じられるかもしれません。
評価
私の評価は5点中3点です。映像とアクション、構成の仕掛けは高く評価できる一方で、キャラクターの内面描写の駆け足感が最後の一押しを鈍らせています。理由の詳細は、記事後半の総評でお伝えします。
キャスト情報

- 主演:サッシャ・ルス(アナ役)
- 共演:ルーク・エヴァンス(アレクセイ役)、キリアン・マーフィー(レナード役)、ヘレン・ミレン(オルガ役)
各キャストの見どころ
サッシャ・ルス(アナ・ポリアトヴァ役)は、本作が事実上のハリウッド初主演。モデルとしての経歴を活かし、静と動の切り替えを体現しています。
ヘレン・ミレン(オルガ役)は、『クイーン』でアカデミー賞主演女優賞にも輝いた実力派。今回は感情を表に出さない冷徹なKGBの元締めを演じ、静かな圧で画面を支配します。
ルーク・エヴァンス(アレクセイ役)は、『ワイルド・スピード』シリーズなどアクション作品での実績を持つ俳優。アナを操ろうとしながら、どこかで情に絡め取られていく男の弱さを滲ませています。
キリアン・マーフィー(レナード・ミラー役)は、『インセプション』や『ピーキー・ブラインダーズ』での抑制の効いた演技で知られる俳優。今回もCIA捜査官として、感情を表に出さないぶん、ふとした瞬間の動揺が際立ちます。
⚠ ここからネタバレを含みます
ここから先は、物語の展開や結末に触れる考察です。未鑑賞の方は、ここでいったんブラウザバックしていただくことをおすすめします。
ネタバレあり感想・考察
印象的だったシーン
最も印象に残ったのは、追い詰められているように見えたアナが、実はその一枚上を行っていたと分かる終盤の場面です。それまで"操られる側"として描かれてきた彼女の表情や仕草が、種明かしのあとに見返すとまったく違う意味を帯びて見えてくる。派手な銃撃戦よりも、こうした表情の"二重の読み"を成立させる編集にベッソン監督の手腕を感じました。
時系列シャッフル構成の効果(考察)
『ANNA/アナ』は、現在と過去を何度も往復しながら物語を進める構成を採っています。同じカットが二度目に映るとき、一度目には見えなかった"本当の意図"が透けて見える——この映画のいちばんの面白さは、実は結末そのものよりもこの構成の仕掛けにあると私は考えています。
私は映画を見るとき、オチや結末の完成度を評価に直結する基準にしています。その基準で見ると、本作の結末自体は「よくできたどんでん返し」の範疇にとどまり、驚愕というほどの衝撃はありません。ただし、時系列をシャッフルする構成のおかげで、一度観ただけでは気づけない伏線や表情の意味が、二度目の鑑賞で次々と発見できる作りになっています。「もう一度観たくなるか」「観るたびに新しい発見があるか」を評価の物差しにしている私にとって、この点は素直に加点材料でした。
キャラクターについて
アナだけでなく、周囲の大人たちの描き方にも好感を持ちました。オルガは終始アナを"駒"として扱う言動を崩しませんが、要所でアナに逃げ道を用意しているようにも読めるカットがあり、ヘレン・ミレンの抑えた演技がその曖昧さを支えています。アレクセイはアナを利用する側でありながら本気で惚れてしまう身の程知らずな男として描かれ、レナードはCIA側の理性的な仕掛け人であるはずが、最後には彼自身が読み違えた側に回る——三人三様の"読み違え"がアナの二重スパイ人生を成立させている構図です。
良かった点・気になった点
本作は批評家からの評価が割れており、批評家スコアは36%にとどまる一方で、観客からの評価はB+と好意的です。この差は、脚本の粗さを重視するか、映像とアクションの快楽・構成の仕掛けを重視するかの違いから生まれていると私は見ています。
良かった点は、繰り返しになりますが時系列構成の仕掛けとスタイリッシュな映像。気になった点は、二重スパイとしての葛藤の内面描写がやや駆け足で、感情移入する前に次の展開へ進んでしまう場面があることです。ここが『ニキータ』や『レオン』ほどの深い余韻を残せなかった理由だと感じています。
総評・一言まとめ
総合評価は5点中3点です。スタイリッシュな映像と、時系列を操る構成の妙は文句なしに楽しめますが、キャラクターの内面にもう一段深く踏み込んでいれば、ベッソン監督の代表作に並ぶ作品になっていたはずです。「観るたびに発見がある」タイプの映画なので、一度観て物足りなさを感じた方こそ、二度目の鑑賞を試してみてほしいと思います。
まとめ

『ANNA/アナ』は、リュック・ベッソン監督ならではのスタイリッシュな映像と緻密なアクションが楽しめる作品です。スパイ映画やアクション映画が好きな方には一見の価値があります。ただ、物語の展開やキャラクターの掘り下げがやや浅いため、好みが分かれるかもしれません。
ネタバレなしの範囲だけでも十分に見応えのある一本ですが、鑑賞後にこの記事の後半へ戻ってきていただければ、時系列シャッフルの仕掛けについて一緒に答え合わせができると思います。『ニキータ』『レオン』のファンにも、まずは手に取ってみてほしい作品です。