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『ザ・コア』を観終えて、地下2,900kmの核へ船で潜る設定に首をかしげた。
「地球の核が止まったら、本当に人類は終わるの?」という疑問が、エンドロールのあとも頭から離れていないかもしれません。
結論から言うと、映画『ザ・コア』がありえないと言われる理由は、地球の核の大きさ・温度・回転のエネルギーを一桁どころか何桁も小さく見積もっている点にあります。
私は理学部物理学科で力学と電磁気学を学んだ立場から、作品の設定を地球物理学の知見と数字で突き合わせました。
読み終えるころには、どこまでが科学でどこからが映画の創作かを、5つの論点で人に説明できるようになります。
あいちゃん地球の真ん中まで船で行くのって、未来の技術なら本当にできるようになるんですか?
えぞえ技術の進歩だけでは越えられない壁が、数字ではっきり見えるんです。人類が掘れた深さから比べてみましょう。
今回の記事の内容
- 地球の核の温度・圧力・構造を数字で理解する
- 地磁気が生まれる仕組みと「止まる」の本当の意味
- 『ザ・コア』のありえない点と正しい点の線引き
映画『ザ・コア』の基本設定と見どころ

『ザ・コア』は、地球の核の異変という壮大な題材を、科学者チームの挑戦として描いた2003年公開のアメリカ映画です。
予告編でも示されている基本設定は、地球の核の動きが止まりかけ、地磁気が崩れ始めるというものです。
そこで科学者たちは、地中を掘り進む特殊な船で核まで潜るという大胆な計画に挑みます。
科学的な正確さについては辛口に語られることの多い作品ですが、娯楽としての見せ場は多く、物理を学んだ目で観ると突っ込みどころそのものが教材になります。
同じ時代の宇宙パニック映画が好きな方は、映画『アルマゲドン』の感想もあわせてどうぞ。
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⚠ 注意
ここから先はネタバレを含みます。作品の設定や描写に触れながら物理学の視点で解説しますので、未鑑賞の方はご注意ください。
地球の核はどうなっている?外核と内核の温度と構造

地球の核は、液体の鉄でできた外核と、固体の鉄でできた内核の二重構造になっていると考えられています。
地球の半径は約6,370kmで、その内側を卵にたとえると、殻が地殻、白身がマントル、黄身が核にあたります。
| 層 | 地表からの深さ | 状態 |
|---|---|---|
| 地殻 | 0〜数十km | 固い岩石 |
| マントル | 数十〜約2,900km | ほぼ固体の岩石(ごくゆっくり流れる) |
| 外核 | 約2,900〜5,100km | 液体の鉄・ニッケル |
| 内核 | 約5,100〜6,370km | 固体の鉄・ニッケル |
地球の核の温度は太陽の表面に近い
内核の温度は、研究によって幅はあるものの、およそ5,000〜6,000℃と推定されています。
これは太陽の表面温度(約5,500℃)とほぼ同じ水準です。
金属の中で最も融点が高いタングステンでも約3,400℃で溶けるため、地上で知られている素材でこの温度に耐えられるものはありません。
内核が固体なのは圧力のせい
外核より熱い内核が固体なのは、とてつもない圧力で鉄が液体になれないからです。
地球の中心の圧力は約360万気圧で、1平方センチメートルあたりに約3,700トンがのしかかる計算になります。
指先ほどの面積に大型旅客機およそ9機分の重さが乗っている、と言えば想像しやすいかもしれません。
誤解:マントルはどろどろのマグマの海ではない
図鑑のイメージから「地下はマグマの海」と思われがちですが、マントルの大部分は固体の岩石です。
マントルは何百万年という長い時間で見ると流れますが、その速さは年に数センチ程度で、爪が伸びる速さとあまり変わりません。
マグマができるのは、火山の下など条件がそろった一部の場所に限られると考えられています。
■ ここがポイント
核へ向かう船は、2,900kmもの固い岩石を掘り抜いたうえで、太陽の表面並みの熱と約360万気圧に耐えなければなりません。
地磁気はなぜ生まれ、止まるとどうなるのか

地磁気は、外核の液体の鉄が対流しながら流れることで電流が生まれ、その電流が磁場をつくる「ダイナモ作用」で保たれていると考えられています。
自転車のライトを灯す発電機が、回転を電気に変える仕組みを地球規模で行っているイメージです。
誤解:核が回転しているから磁石になるわけではない
「核がくるくる回っているから地球は磁石になる」という説明を見かけますが、これは正確ではありません。
核は地球全体と一緒に1日1回転しており、磁場を生むのは回転そのものではなく、外核の中で起きている鉄の流れ(対流)です。
しかも核の温度は鉄が磁石の性質を失う温度(約770℃)をはるかに超えているため、核が棒磁石のように磁石になっているわけでもありません。
「内核の回転が止まった」ニュースの本当の意味
2023年には、内核のマントルに対する回転のずれが近年ほぼ止まって見え、向きが変わりつつある可能性を示す研究が発表され、話題になりました。
これは内核とマントルの「相対的な回転の差」の話で、地球の核そのものが止まったわけではありません。
この変化で1日の長さが変わる幅はミリ秒(1,000分の1秒)単位とされ、生活に影響が出るものではないと考えられています。
地磁気の逆転は数千年かけて起きる
地磁気は過去に何度もN極とS極が入れ替わっており、最後の逆転は約77万年前に起きたことが地層の記録からわかっています。
逆転の途中では磁場が大きく弱まりますが、その変化は数千年単位でゆっくり進むと考えられています。
過去の逆転と生物の大量絶滅をはっきり結びつける証拠は、現時点では見つかっていません。
地磁気が消えると何が困るのか
地磁気は、太陽から吹きつける電気を帯びた粒子の流れ(太陽風)をそらす盾の役割を果たしています。
盾が弱まると、人工衛星の故障や送電網のトラブル、低い緯度でのオーロラなどが増えると予想されます。
一方で大気そのものも宇宙からの放射線を吸収しているため、地磁気が消えた瞬間に地上の生き物が全滅するわけではありません。
全球的な磁場を持たない天体の環境は、月の居住可能性の検証でも扱っています。
■ ここがポイント
地磁気の異変は現実にも起こりえますが、その時間の流れは数千年単位で、数日や数か月で世界が崩れる速さではありません。
『ザ・コア』がありえない理由と正しい点を5項目で線引き

作品の設定を5つの論点に分けると、着想には科学的な根拠がある一方で、規模と速さの見積もりが現実と大きく離れていることがわかります。
| 論点 | 判定 | 理由 |
|---|---|---|
| 核の流れが止まる | ありえない | 止めるには桁違いのエネルギーが必要 |
| 地中を進む船 | ありえない | 熱と圧力に耐える素材が存在しない |
| 核爆弾で核を動かす | ありえない | 核の回転エネルギーに対して小さすぎる |
| 太陽光が地上を焼く | 誇張 | 地磁気は光を防いでいない |
| 鳥が方向を見失う | 根拠あり | 磁気を感じる鳥がいると考えられている |
核の流れが急に止まることはない
外核の対流は、内核が固まるときの熱や地球が冷えていく熱で数十億年動き続けてきたもので、外から邪魔されない限り急に止まる理由はありません。
仮に核の回転だけが止まった場合、回転の勢い(角運動量)は保存されるため、その分がマントルと地殻に移り、単純計算では1日が約21時間に縮むほどの変化になります。
地中を進む船は素材の時点で成り立たない
人類が実際に掘った最も深い穴は、ロシアのコラ半島で約20年かけて到達した約12kmです。
これは地球の半径の約0.2%にすぎず、地球をリンゴにたとえると皮の厚みにも届きません。
核の入り口までの約2,900kmはその約240倍で、作中の架空の新素材がなければ一歩も進めない距離です。
核爆弾では核の回転エネルギーに遠く及ばない
地球の核が持つ回転のエネルギーは、ざっと見積もって約2×10の28乗ジュールです。
人類史上最大の核実験とされる「ツァーリ・ボンバ」(約50メガトン)でも約2×10の17乗ジュールなので、およそ1,000億発分が必要になる計算です。
作中の計画は、湖の水を手でかき混ぜて巨大な渦をつくろうとするような規模の差を抱えています。
太陽光が地上を焼く描写は誇張
地磁気がそらしているのは電気を帯びた粒子であり、太陽の光そのものを防いでいるわけではありません。
紫外線を吸収しているのは大気中のオゾン層なので、地磁気が乱れても日光が急に破壊的な強さになることは考えにくいです。
鳥が方向を見失う描写には根拠がある
渡り鳥やハトの一部は、地磁気を感じ取って方角を知っていると考えられています。
地磁気の乱れで鳥が迷うという発想は、作品の中で最も現実の研究に近い描写と言えます。
『ザ・コア』は着想こそ本物の地球物理学に根ざしていますが、核の規模とエネルギーを何桁も小さく見積もったところに「ありえない」の正体があります。
とはいえ、地球の中心という誰も見たことのない場所を、映像で体験させてくれる点はこの作品ならではの魅力です。
まとめ

映画『ザ・コア』がありえないと言われる最大の理由は、地球の核の大きさ・温度・エネルギーの見積もりにあります。
一方で、外核の流れが地磁気を生むことや、鳥が地磁気を頼りにしていることなど、土台には本物の科学が使われています。
「どこが本物で、どこが創作か」を知ってから観直すと、パニック映画としての面白さがむしろ増して感じられるはずです。
この記事のまとめ
- ✓ 地球の核は約5,000〜6,000℃・約360万気圧で、耐えられる素材は存在しない
- ✓ 地磁気を生むのは外核の対流で、変化は数千年単位でゆっくり進む
- ✓ 核を核爆弾で動かす計画は、エネルギーが必要量の約1,000億分の1しかない
よくある質問
地球の核の温度は何度くらいですか?
内核はおよそ5,000〜6,000℃と推定されており、太陽の表面温度(約5,500℃)とほぼ同じ水準です。直接測ることはできないため、地震波の伝わり方や高圧実験の結果から見積もった値で、研究によって数百℃程度の幅があります。
地磁気が止まったら人類は滅びますか?
すぐに滅びることはないと考えられています。地磁気が弱まると人工衛星や送電網への影響が増えますが、大気も放射線を吸収しています。また地磁気の逆転は数千年かけて進み、過去の逆転と大量絶滅を結びつける証拠は見つかっていません。
外核と内核はどう違うのですか?
どちらも主に鉄とニッケルでできていますが、外核は液体、内核は固体という違いがあります。内核のほうが高温なのに固体なのは、中心に近いほど圧力が高く、鉄が液体になれないためです。地磁気を生んでいるのは液体の外核の流れだと考えられています。
※本記事は作品の批評・考察を目的とした個人の感想です。あらすじの詳細な再現や結末の解説は行っていません。引用は論評に必要な最小限にとどめています。作品名・登場人物名・画像等の権利はすべて各権利者に帰属します。