2019年の年末、オリオン座の赤い星ベテルギウスが急に暗くなり「爆発の前兆か」と騒がれました。
「自分が生きているうちに見られるのか」「地球は大丈夫なのか」と、ニュースを見て気になった方もいるはずです。
この記事を読めば、ベテルギウスの超新星爆発がいつ起きそうか、地球への影響はあるのかを、数字の根拠つきで判断できるようになります。
ポイントは、星の寿命を「人間の時間」に置き換えて考えることと、明るさや危険度を距離の比で見積もることです。
理学部の物理学科で学んだ立場から、NASAやESO(ヨーロッパ南天天文台)が公表している観測結果をもとに解説します。
あいちゃんベテルギウスってもうすぐ爆発するって聞いたんですけど、明日いきなり昼間の空に光ったりするんですか?
えぞえ実は、天文学の「もうすぐ」と私たちの「もうすぐ」は桁がまるで違うんです。数字で比べると、驚くほど印象が変わりますよ。
今回の記事の内容
- ベテルギウスが超新星爆発の候補と言われる理由と、爆発の時期の見積もり
- 2019〜2020年の「大減光」の正体と、よくある誤解の訂正
- 爆発したときの明るさと地球への影響、映画の描写との違い
ベテルギウスとはどんな星か|超新星爆発の候補と言われる理由

ベテルギウスは、寿命の終わりが近い「赤色超巨星」で、いずれ超新星爆発を起こすと考えられている星です。
冬の夜にオリオン座を見ると、四角形の左上に赤っぽく輝く1等星があり、それがベテルギウスです。
地球からの距離は約500〜700光年と見積もられており、近年の研究では約550光年という値が示されています。
太陽の約750倍という巨大さ
ベテルギウスの半径は、太陽のおよそ700〜1,000倍と推定されています。
太陽を直径1センチのビー玉にたとえると、ベテルギウスは直径7〜10メートルの大きな球になります。
もし太陽の位置に置いたら、表面は火星の軌道より外側まで届く大きさです。
太陽の15〜20倍という重さが運命を決める
ベテルギウスの質量は、太陽の約15〜20倍と推定されています。
恒星が超新星爆発を起こすには、太陽のおよそ8倍以上の質量が必要だとされています。
そのため、太陽は超新星爆発を起こさず、ベテルギウスは起こす側の星に分類されます。
なぜ最後に爆発するのか
重い星は、中心部で軽い元素を重い元素へと次々に核融合させ、そのエネルギーで自分の重さを支えています。
ところが最後にできる鉄は、核融合してもエネルギーを生み出せない「燃えカス」のような元素です。
燃料の切れたストーブのように中心の支えがなくなると、中心部は1秒にも満たない時間で一気に潰れます。
この崩壊の反動で外側の層が吹き飛ばされるのが、ベテルギウスのような重い星で起きる超新星爆発(重力崩壊型)です。
爆発のあとの中心には、中性子星が残る可能性が高いと考えられていますが、ブラックホールになる可能性も議論されています。
■ ここがポイント
超新星爆発を起こせるのは太陽の約8倍以上の重い星だけで、ベテルギウスはその条件を満たしています。太陽が超新星爆発することはありません。
ベテルギウスの超新星爆発はいつ起きる?「10万年」の意味

結論から言うと、ベテルギウスの超新星爆発は、おおむね10万年程度先になるという見積もりが有力です。
2020年に東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構などの研究チームは、ベテルギウスが中心でヘリウムを燃やしている段階にあり、爆発まで約10万年と見積もりました。
一方で、数十年〜数百年以内に爆発するとした研究も発表されましたが、異論も多く、定説にはなっていません。
人生80年に置き換えると「残り10か月」
ベテルギウスの寿命は全体で約1,000万年と考えられています。
残り10万年は、その寿命の約1%にあたります。
人生80年に置き換えると、80年の1%は約0.8年なので、「残り10か月ほど」という感覚になります。
天文学では「寿命の最終盤」でも、人間の時間に直すと当分先の話です。
誤解の訂正|「明日爆発する」は言い過ぎ
「明日爆発してもおかしくない」という表現は、確率がゼロではないという意味では間違いではありません。
しかし、残り10万年という見積もりを前提にすると、今後1年のうちに爆発する確率は単純計算で10万分の1程度です。
「明日にも爆発する」というニュアンスで受け取るのは、言い過ぎだと私は考えています。
誤解の訂正|「もう爆発していて光が届いていないだけ」
ベテルギウスまでの距離を約550光年とすると、いま見えている光は約550年前に星を出た光です。
550年前の日本は室町時代の後半で、私たちはその頃のベテルギウスの姿を見ていることになります。
そのため「すでに爆発していて、知らせがまだ届いていないだけ」という説が語られることがあります。
ただし残り10万年という見積もりで計算すると、この550年のうちに爆発している確率は550÷100,000で約0.5%です。
可能性はゼロではないものの、「すでに爆発済み」と考える根拠は薄いと言えます。
光が届くまでの時間の感覚は、光速の壁の話とあわせて読むとつかみやすくなります。
2019〜2020年の大減光は爆発の前兆だったのか

2019年末から2020年2月にかけての「大減光」は、爆発の前兆ではなく、星の外側で起きた現象が原因と考えられています。
このときベテルギウスは、普段のおよそ4割ほどの明るさまで暗くなり、1等星らしい輝きを一時的に失いました。
原因は「表面から噴き出したガスが冷えてできた塵」
ESO(ヨーロッパ南天天文台)の発表では、星の表面の一部の温度が下がったことと、放出されたガスが冷えて塵(ちり)になり、星の一部を覆ったことが原因とされています。
NASAのハッブル宇宙望遠鏡の観測でも、表面から大量のガスが噴き出したあとに暗くなった様子が報告されています。
焚き火から上がった煙が、その向こうにある街灯の光をかすませるのと似た現象です。
誤解の訂正|「暗くなった=爆発が近い」ではない
ベテルギウスは、もともと数百日周期で明るさが変わる変光星です。
大減光は、その変化の幅が普段より大きく出た出来事で、中心部で爆発が始まったことを示すものではないと考えられています。
実際にその後、ベテルギウスは元の明るさに近い状態まで戻っています。
■ ここがポイント
大減光の主な原因は、星の表面から放出されたガスが冷えてできた塵と、表面の一部の温度低下だと考えられています。爆発の直接の前兆とはみなされていません。
超新星爆発したら地球はどうなる?明るさと影響を数字で見る

ベテルギウスが超新星爆発しても、地球の生き物に深刻な害が出ることはないと考えられています。
一方で、空の見え方は大きく変わり、昼間でも見えるほど明るく輝くという試算があります。
明るさは半月ほど、昼間でも数か月見えるという試算
爆発後のベテルギウスは、明るさが半月に近い水準になるという試算があります。
昼間の青空の中でも点のような光として数か月ほど見え、夜には物の影ができるほどの明るさになる可能性があります。
その後はゆっくり暗くなり、数年ほどで肉眼では見えなくなると考えられています。
オリオン座からは「肩」の星が消え、私たちが知っている星座の形が変わることになります。
地球が危険になる距離との比較
超新星爆発が地球のオゾン層などに深刻な影響を与えるのは、数十光年以内(約50光年程度とする見積もりが知られています)で起きた場合とされています。
ベテルギウスまでの約550光年は、その約11倍の距離です。
光や放射線の強さは距離の2乗に反比例するので、11倍離れると強さは約121分の1になります。
ストーブから1メートルなら熱くても、11メートル離れればほとんど熱を感じないのと同じ理屈です。
| 項目 | 目安の数字 | たとえ・補足 |
|---|---|---|
| 地球からの距離 | 約550光年(推定) | 危険とされる約50光年の約11倍 |
| 爆発後の明るさ | 半月に近いという試算 | 昼間でも数か月見える可能性 |
| 放射の強さ | 危険距離の約121分の1 | 距離の2乗に反比例 |
| 爆発までの時間 | 約10万年という見積もり | 人生80年なら残り10か月ほど |
光より先に届く「ニュートリノ」
超新星爆発のエネルギーの大部分は、物質をほとんど素通りする「ニュートリノ」という素粒子として放出されます。
1987年に約16万光年先で起きた超新星では、岐阜県のカミオカンデがニュートリノを11個捉え、この成果は2002年のノーベル物理学賞につながりました。
ベテルギウスはその約300分の1の距離なので、届くニュートリノの量は単純計算で約9万倍になります。
ニュートリノは光より先に地球に届くため、スーパーカミオカンデなどの観測装置が、目で見えるより早く爆発を知らせると考えられています。
爆発の際には重力波の検出も期待されており、仕組みは重力波観測の仕組みで詳しく扱っています。
ベテルギウスの爆発は、地球を壊す出来事ではなく、人類が近くの超新星を初めて間近で観測できる大きな機会になると私は考えています。
映画『スター・トレック』の超新星描写はどこまで科学的か

※この節は映画『スター・トレック』(2009年)の設定の一部に触れます。物語の展開や結末には触れません。
超新星爆発を物語の重要な設定として扱った映画の例として、2009年公開の『スター・トレック』があります。
作中では、ある恒星の超新星爆発が、星系を越えて銀河規模に広がる脅威であるかのように語られます。
物理の目で見ると、ここには科学的に正しい部分と、物語のための創作がはっきり分かれています。
科学的に正しい部分|周囲の惑星にとっては致命的
超新星爆発が、その恒星のすぐ近くにある惑星にとって壊滅的な出来事になる点は、物理的に正しい描写です。
爆発で放出されるエネルギーは、短い期間なら銀河全体の星の光に匹敵するほど大きいとされています。
近くの惑星が強い放射線と吹き飛ばされたガスにさらされれば、生命が生き残るのは難しいでしょう。
創作の部分|銀河全体が脅かされることはない
一方で、1つの超新星爆発が銀河全体を危険にさらすという点は、物語のための創作だと私は考えています。
先ほどの計算どおり、影響の強さは距離の2乗で急速に弱まり、数十光年を超えると深刻な害はほぼなくなります。
銀河の大きさは約10万光年なので、数十光年はその数千分の1にすぎません。
また、吹き飛ばされたガスが進む速さは光速よりずっと遅く、星から星へと短時間で広がることもありません。
ただし、身近な恒星の死を「文明の危機」として描くことで、宇宙のスケールの大きさを観客に体感させる演出としては効果的だと感じました。
まとめ

ベテルギウスは、太陽の15〜20倍の重さをもつ赤色超巨星で、いずれ超新星爆発を起こすと考えられています。
ただし爆発の時期はおおむね10万年程度先という見積もりが有力で、人間の時間で言えば当分先の話です。
2019〜2020年の大減光は、塵と表面温度の低下によるものと考えられており、爆発の直接の前兆ではありませんでした。
爆発しても約550光年離れた地球に深刻な害はなく、昼間でも見える新しい光として空を彩ることになるでしょう。
この記事のまとめ
- ✓ ベテルギウスは太陽の約15〜20倍の重さをもつ赤色超巨星で、いずれ超新星爆発を起こすと考えられている
- ✓ 爆発はおおむね10万年程度先という見積もりが有力で、「明日爆発する」は言い過ぎ
- ✓ 2019〜2020年の大減光は塵と表面温度の低下が原因とされ、爆発の前兆ではない
- ✓ 約550光年離れているため、爆発しても地球に深刻な害はないと考えられている
- ✓ 映画の「銀河規模の脅威」は創作で、影響は距離の2乗で急速に弱まる
よくある質問
ベテルギウスは私たちが生きているうちに爆発しますか?
可能性はゼロではありませんが、低いと考えられています。有力な見積もりでは爆発まで約10万年とされ、今後100年以内に起きる確率は単純計算で約0.1%です。より近い将来とする研究もありますが、定説にはなっていません。
ベテルギウスが超新星爆発すると地球に危険はありますか?
深刻な危険はないと考えられています。地球に大きな影響が出るのは約50光年以内の爆発とされ、ベテルギウスはその約11倍遠い約550光年先にあります。放射の強さは距離の2乗で弱まるため、影響は約121分の1にとどまります。
ベテルギウスが爆発したら日本からも見えますか?
見える可能性が高いと考えられています。爆発後は半月に近い明るさになるという試算があり、昼間でも数か月ほど見えるとされています。ただし季節によっては太陽に近い方向にあるため、夜空で見やすいのは冬から春にかけてです。
※本記事は作品の批評・考察を目的とした個人の感想です。あらすじの詳細な再現や結末の解説は行っていません。引用は論評に必要な最小限にとどめています。作品名・登場人物名・画像等の権利はすべて各権利者に帰属します。