映画『シャイニング』で、ジャックがバーでウイスキーを飲むシーンが印象的だけど…確かホテルにお酒は一滴もないはずだよね?
鋭い指摘ですね。実はあの「お酒」こそが、ジャックがホテルに取り込まれてしまった決定的な証拠なんです。今回はその謎を深掘りしましょう。
スタンリー・キューブリック監督の名作ホラー『シャイニング』。雪に閉ざされたホテルでジャックが狂っていく過程で、欠かせない要素が「お酒」です。しかし、設定を思い返すと、そこには大きな矛盾があることに気づきます。この記事では、以下のポイントを解説します。
- 物理的な酒はゼロだったのに、なぜジャックは飲めたのか
- 「酒を飲む」という行為に隠されたホテルとの契約
- 幽霊よりも恐ろしい「精神的な酔い」の演出意図
現実には「お酒は一滴もなかった」!バーで起きた怪現象の正体

物語の冒頭、ホテルの支配人アルマンが説明していた通り、冬の間オーバールック・ホテルのバーにあるアルコール類はすべて運び出されており、在庫は完全にゼロでした。
つまり、ジャックがゴールドルームでバーテンダーのロイドから受け取った「ジャック・ダニエル」や、紳士たちが手にしていた飲み物は、すべて現実には存在しない「幻覚」です。物理的な液体は一滴も存在しないにもかかわらず、ジャックの目にははっきりと見え、その味さえも感じていたことになります。これは、ホテルの邪悪な意志がジャックの脳に直接干渉し始めたことを意味しています。
なぜジャックは幻の酒を飲んだのか?「魂の契約」と断酒の過去

ジャックがお酒に手を出してしまった背景には、彼の暗い過去が関係しています。彼は過去に飲酒が原因で息子ダニーに怪我をさせてしまったことがあり、ホテルに来た時点では5ヶ月間の断酒中でした。しかし、執筆の行き詰まりと家族への苛立ちが、彼の禁欲を限界まで追い詰めます。
バーのカウンターでジャックが放った「魂を売ってでも、一杯のビールが飲みたい」という言葉。これがホテル側への「契約のサイン」となりました。ホテルは彼の最も弱い部分である「酒への渇望」を利用して誘惑し、ジャックはそれを受け入れることで、自ら「現実(家族)」を捨てて「幻想(ホテル)」側につくことを選択したのです。
「ないはずの酒」に酔う恐怖。お酒が象徴するジャックの完全な崩壊

物理的なお酒がないのにジャックが酔ったように振る舞うのは、彼が「ホテルの邪悪なエネルギー」に精神的に酔わされていたからだと言えます。グラスを空にするたびに、彼の理性は削り取られ、代わりにホテルの殺人鬼としての本性が剥き出しになっていきます。
特に恐ろしいのは妻ウェンディの視点です。彼女から見れば、酒がないはずの場所でジャックが酔っ払ったようにフラフラし、支離滅裂な言動を繰り返す姿は、幽霊を見るよりも不気味で理解不能な恐怖だったはずです。「ないはずの酒で狂っていく」という演出こそが、本作を単なる幽霊屋敷ものではなく、ハイレベルな心理ホラーへと押し上げているのです。
まとめ

映画『シャイニング』におけるお酒は、単なる飲み物ではなく、ジャックの理性が崩壊し、ホテルの一部になっていく過程を描くための重要な装置でした。現実に存在しない酒を飲むことで、彼は人間としての最後の一線を越えてしまったのです。
次に映画を観る際は、ジャックがグラスを空にするたびに、どれだけ表情や言葉遣いが「人間」から離れていくかに注目してみてください。その細かな変化に、キューブリック監督の徹底したこだわりが隠されています。