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映画の物理学

ジュラシックパークのカオス理論とは?水滴の場面を物理で解説

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『ジュラシック・パーク』を観返していて、マルコム博士の水滴の場面だけ話が頭に入らなかった。

「カオスって、結局めちゃくちゃという意味?」と、モヤモヤしたまま次の場面へ進んでいませんか。

結論から言うと、ジュラシックパークのカオス理論をわかりやすく言えば、ルールは決まっているのに出発点のわずかな違いで未来が読めなくなる、という話です。

私は理学部物理学科で力学を学んだ立場から、気象学者ローレンツの研究など実際の数字を使って、この性質を確かめていきます。

読み終えるころには、水滴の場面が何を伝えようとしていたのか、そして作品の描写がどこまで科学的なのかを自分の言葉で説明できるようになります。

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カオス理論って、恐竜が暴れて大混乱になる、みたいな意味ですよね?

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実は「混乱」とは少し違うんです。全部がルールどおりに動いているのに予測できない、というところがいちばん面白いんですよ。

今回の記事の内容

  • カオス理論と初期値鋭敏性を、数値例でわかりやすく理解する
  • バタフライ効果の由来と、天気予報が2週間先まで届かない理由
  • マルコム博士の水滴の場面は、どこまで科学的でどこから創作か

『ジュラシック・パーク』とマルコム博士のカオス理論

ジュラシック・パークとマルコム博士のカオス理論のイメージ

『ジュラシック・パーク』は、マイケル・クライトンの小説をもとにスティーブン・スピルバーグ監督が映画化した、1993年公開のアメリカ映画です。

予告編でも示される基本設定は、恐竜をよみがえらせたテーマパークを、開園前に専門家たちが視察するというものです。

その視察団の一人が、カオス理論を専門とする数学者のイアン・マルコム博士です。

恐竜映画でありながら、数学者が理屈で計画の危うさを指摘する点に、この作品の知的な面白さがあると私は考えています。

物理の目で見ると、マルコム博士の主張は半分が本物の科学で、残り半分は映画らしい大胆な拡張です。

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⚠ 注意

ここから先はネタバレを含みます。作品の設定や描写に触れながら物理学の視点で解説しますので、未鑑賞の方はご注意ください。

カオス理論とは?決まっているのに予測できない仕組み

カオス理論とは決まっているのに予測できない仕組みのイメージ

カオス理論とは、ルールが完全に決まっている仕組みでも、出発点のわずかな違いが時間とともに膨らみ、遠い先が予測できなくなる現象を扱う分野です。

ルールどおりに動くのに未来が読めない

物理の世界では、今の位置と速さが分かれば、運動の法則によって次の瞬間の状態が一つに決まります。

この考え方を決定論と呼び、サイコロのような偶然は入り込んでいません。

それでも未来が読めなくなるのは、出発点を完全に正確には測れないからです。

身近な例が、振り子の先にもう1本の振り子をつないだ二重振り子です。

同じ位置から手を離したつもりでも、しばらくすると2回の動きはまったく別物になっていきます。

初期値鋭敏性|誤差は足し算ではなく倍々で増える

出発点の小さな違いが大きく膨らむ性質を、初期値鋭敏性と呼びます。

大事なのは、誤差が足し算ではなく掛け算で、つまり倍々で増えていくことです。

たとえば、0.001ミリの誤差が一定時間ごとに2倍になる仕組みを考えてみます。

10回倍になると約1,000倍で約1ミリ、20回倍になると約100万倍で約1メートルにまで広がります。

測定の精度を10倍に上げても、稼げる時間は「倍になる回数」でいえば3〜4回分にすぎません。

精度を上げる努力に対して、予測できる期間が少しずつしか延びないところが、カオスの厄介な点です。

よくある誤解|カオスは「でたらめ」という意味ではない

日常語のカオスは「めちゃくちゃ」という意味で使われますが、物理のカオスは別物です。

カオスな動きはでたらめに見えても、一つひとつの瞬間は法則どおりに決まっています。

しかも長い目で見ると、動きが一定の範囲に収まり、決まった形の模様を描く例が多いことも分かっています。

予測できないのは「いつ・どこにいるか」という細部であって、全体の傾向まで読めなくなるわけではありません。

■ ここがポイント

カオスは偶然ではなく、決まっているのに読めない状態です。誤差が倍々で膨らむため、測定を10倍正確にしても、予測できる期間はわずかしか延びません。

バタフライ効果の正体|ローレンツが見た小さな誤差

バタフライ効果の正体|ローレンツが見た小さな誤差のイメージ

バタフライ効果とは、初期値鋭敏性を象徴的に言い表した言葉で、気象学者エドワード・ローレンツの研究がもとになっています。

0.506127と0.506のわずかな差

1961年ごろ、ローレンツは単純化した気象モデルをコンピューターで計算していました。

途中から計算をやり直す際、数値を0.506127ではなく、下3桁を省いた0.506で入力したと伝えられています。

差は約4,000分の1にすぎませんが、しばらくすると計算上の天気はまったく違うものになりました。

ローレンツはこの発見を1963年の論文にまとめ、のちに蝶の羽ばたきのたとえで広く知られるようになります。

1972年の講演の題目は、ブラジルの蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こすか、という問いかけの形だったとされています。

天気予報が2週間先まで届かない理由

バタフライ効果がいちばん身近に効いているのが、天気予報です。

大気の観測点には限りがあり、観測そのものにも誤差があるため、出発点のずれは必ず残ります。

そのずれが倍々で育つため、日々の天気を細かく当てられるのは、おおむね2週間程度が限界と考えられています。

一方で、来月は平年より暖かい傾向といった全体の見通しは、細部とは別の方法である程度見積もれます。

よくある誤解|蝶が竜巻を起こすわけではない

バタフライ効果は、蝶の羽ばたきが竜巻の原因になるという意味ではありません。

バタフライ効果の本質は、原因の大きさではなく長い先の予測には越えられない限界があるという点にあります。

小さな行動が必ず大きな結果を生む、という教訓話として使われるのは、本来の意味から少しずれています。

わずかな違いで軌道が読めなくなる性質には、天体の運動の研究で先に気づいた数学者もいて、詳しくは三体問題の解説をどうぞ。

すべてを知れば未来は計算できる、という考え方との関係は、ラプラスの悪魔の解説で掘り下げています。

マルコム博士の水滴の場面を物理で読み解く

マルコム博士の水滴の場面を物理で読み解くのイメージ

マルコム博士が手の甲に水滴を落とす場面は、初期値鋭敏性を言葉ではなく体感で伝える、よくできた演出です。

水滴の実験が見せているもの

この場面の要点は、同じ場所に落としたつもりの水滴が、毎回違う方向へ流れていくことです。

手の甲の産毛やわずかな傾き、皮膚の脂のつき方など、目に見えない違いが水の行き先を左右します。

同じ条件のつもりでも本当に同じにはできない、という予測の限界の出発点を、短い時間で見せています。

厳密にはカオスより「測りきれない条件」の話

物理の目で厳密に言うと、水滴の場面はカオスそのものより、条件を測りきれないことの実演に近いものです。

本来のカオスは、条件をまったく同じにできれば毎回同じ結果になるのに、ごく小さな差が時間とともに増幅される点が肝です。

水滴の場合は、ずれが倍々で育つ過程よりも、肌の表面ごとに条件がばらつく効果のほうが大きいと考えられます。

とはいえ、数式を使わずに予測の限界を観客に直感させる比喩としては、十分に的を射ています。

水滴の場面が作品全体にどう効いているか

水滴の場面は、細かな伏線というより、作品全体を見るためのものさしを観客に手渡す役割を果たしています。

完璧に設計したと自負する施設と、小さなずれは必ず育つという理屈を、早い段階で正面からぶつけておく構成です。

そのため観客は、想定外の出来事に出会うたびに、あの水滴の話を思い出す仕掛けになっていると私は感じます。

■ ここがポイント

水滴の場面は厳密なカオスの実験ではありませんが、同じ条件は二度と作れないという予測の限界を体感させる比喩として優れています。

どこまで科学的?ジュラシック・パークのカオス理論の線引き

どこまで科学的ジュラシック・パークのカオス理論の線引きのイメージ

作品のカオス理論は、予測には限界があるという中心の部分は正確で、それを施設全体の行く末の見通しにまで広げたところが創作です。

作品の描写 判定 理由
水滴で示す初期値鋭敏性 おおむね正確 厳密にはカオスより条件のばらつきの実演だが、予測に限界があるという要点は合っている
生き物の数は管理しきれないという直感 科学的な裏付けあり 単純な個体数の式でもカオスが生じることが1970年代に示されている
複雑な施設の行く末を見通す論法 比喩としての拡張 カオス理論は予測できないと言う理論で、特定の失敗を予言する理論ではない
琥珀の中の蚊から恐竜のDNAを得る設定 創作 DNAは時間とともに分解し、数千万年前の情報を読み出すのは難しいと考えられている

正確な点|生き物の数は単純な式でも予測しにくい

生態学者のロバート・メイは1976年、個体数の増え方を表すごく単純な式でも、増える勢いがある値を超えると数が不規則に揺れ動くことを示しました。

翌年の数を決めるルールは一つなのに、年ごとの数はでたらめに見える変動を続けます。

生き物を相手にする施設の管理が計算どおりに進むとは限らない、というマルコム博士の直感には、こうした科学的な裏付けがあります。

創作の点|カオス理論は失敗を予言する理論ではない

一方で、カオス理論から、この計画は必ず失敗すると言い切ることはできません。

カオス理論が教えてくれるのは遠い先は予測できないということであり、失敗も成功も同じように予測できないからです。

必ず失敗すると断言すること自体が一つの予測なので、厳密には理論の守備範囲を越えています。

現実の巨大な設備では、予測できないことを前提に、小さなずれを早く見つけて直す仕組みを何重にも重ねて安全を保っています。

マルコム博士の警告は、物理の法則というより、複雑な仕組みへの過信を戒めるメタファーとして読むのが自然だと私は考えています。

物理の外の話|琥珀から恐竜のDNAは取り出せるか

琥珀に閉じ込められた蚊から恐竜のDNAを得るという設定は、物理ではなく生物学の領域ですが、現実には極めて難しいと考えられています。

2012年に発表された研究では、骨に残るDNAはおよそ521年で半分が壊れていくと見積もられました。

恐竜が絶滅した約6,600万年前でさえ、その10万倍以上の時間にあたり、読み取れる情報はまず残らない計算です。

まとめ

まとめのイメージ

『ジュラシック・パーク』のカオス理論は、予測の限界という中心の考え方を正しく押さえつつ、それを施設の行く末の見通しにまで広げた描写です。

カオスはでたらめではなく、決まったルールの中で小さな誤差が倍々に育つことで、遠い先が読めなくなる現象です。

水滴の場面を観返すときは、毎回違う方向へ流れる水を、予測の限界を示す比喩として眺めてみてください。

この記事のまとめ

  • ✓ カオスはでたらめではなく、決まったルールの中で予測できなくなる現象
  • ✓ 誤差は倍々で育つため、測定を10倍正確にしても予測期間はわずかしか延びない
  • ✓ バタフライ効果は蝶が竜巻を起こす話ではなく、長期予測の限界を表すたとえ
  • ✓ 水滴の場面は予測の限界の比喩として正確で、施設の行く末の予言は創作の領域

▶ 次にやること

予測の限界を「すべてを知れば未来は計算できる」という考え方と比べて、決定論の全体像をつかんでみましょう。

ラプラスの悪魔の解説へ

よくある質問

カオス理論とバタフライ効果は同じ意味ですか?

同じではありません。カオス理論は決まったルールでも長期の予測ができなくなる現象を扱う分野全体を指し、バタフライ効果はそのうち出発点のわずかな違いが大きく育つ性質(初期値鋭敏性)を、蝶の羽ばたきにたとえた呼び名です。

マルコム博士の水滴の実験は科学的に正しいのですか?

予測の限界を体感させる比喩としては、おおむね正確です。ただし厳密には、ずれが時間とともに倍々で育つカオスよりも、手の表面の条件を測りきれないことの実演に近く、物理学の実験としては簡略化されています。

カオス理論があるから天気予報は当たらないのですか?

数日先までの予報は、観測と計算の進歩で精度が上がり続けています。ただし日々の天気を細かく当てられる限界はおおむね2週間程度と考えられており、それより先は気温の傾向など全体の見通しを示す形の予報になります。

えぞえ

執筆者:えぞえ(理学部物理学科出身)
物理で身につけた「現象を法則から読み解く」視点で、ワンピース考察と映画レビューを7年以上書いています。
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