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映画ファンの皆さん、今回は2024年7月19日公開の映画『化け猫あんずちゃん』について徹底レビューします。監督は久野遥子さんと山下敦弘さんの共同体制、実写映像をもとに描くロトスコープという珍しい手法で作られた一本です。この記事では、あらすじや声優キャスト、見どころをネタバレなしでお伝えしたあと、「ここからネタバレ」の見出しを境に、私が本作でいちばん語りたい「ほっこりの奥にあるダークさ」について踏み込んで書いていきます。
映画の情報

| 映画名(日本語) | 化け猫あんずちゃん |
| 映画名(英語) | Bakeneko Anzu-chan |
| ジャンル | ファンタジー / ドラマ |
| 公開日 | 2024年7月19日 |
| 製作国 | 日本 |
| 評価 | 5点中4点 |
なお本作は、カンヌ国際映画祭の監督週間で正式上映されたほか、ファンタジア国際映画祭では最優秀長編アニメーション賞と観客賞金賞をダブル受賞しています。海外の映画祭で高く評価されたという事実だけでも、期待値を上げて観に行く理由になると思います。
あらすじ
南伊豆にある古びたお寺「草成寺」。そこで30年以上生き続け、化け猫となったあんずちゃんが、事情あってこの寺に預けられた少女・かりんと出会う。人語を話し、二本足で歩く不思議な同居猫と、都会育ちの少女の、どこかずれているのに離れがたい共同生活が始まる。
感想と見どころ(ネタバレなし)

感想1:あんずちゃんとかりん、種の壁を越えた同居生活
あんずちゃんは、ずんぐりした体を揺らしながら気だるげに歩く化け猫で、面倒見がいいのか悪いのかよく分からない距離感でかりんに接します。保護者ぶるわけでも突き放すわけでもない、この中途半端な優しさがかえって心地よく、観ているうちにこの猫のペースに引き込まれていきます。序盤はコメディの温度感が強く、肩の力を抜いて楽しめる作りになっています。
感想2:実写ロトスコープが生む唯一無二の質感
本作最大の特徴は、実際に俳優が演じた実写映像をもとに絵をなぞって作画するロトスコープ(実写の動きをフレームごとになぞってアニメ化する手法)で全編が作られている点です。しかも撮影時に収録した音声をそのまま台詞として使っているため、キャラクターの息づかいや間の取り方が、普通のアフレコとは明らかに違う生々しさを持っています。
■ ここがポイント
ロトスコープの絵は、フルアニメのような滑らかさとは違い、わずかに「間延び」した動きになります。この微妙な"隙"が、あんずちゃんという得体の知れない存在の不気味さと愛嬌を同時に成立させていて、私はここに一番惹きつけられました。
感想3:温泉町の呑気な空気の奥にあるもの
南伊豆の鄙びた温泉町の空気感は最後までのんびりしていて、観光地紹介の映像を眺めているような心地よさがあります。ただ、その呑気さの奥に、ときどき「あれ、この町は今どういう時代なのだろう」と落ち着かなくなる瞬間が挟み込まれます。ここから先の踏み込んだ話は、ネタバレありのパートでじっくり書きます。
こんな人におすすめ/おすすめしない人
ゆるいアニメの空気感が好きな人、猫が主役の作品が好きな人には安心しておすすめできます。一方で、派手なアクションや明快などんでん返しを期待して観ると、テンポの緩やかさに肩透かしを感じるかもしれません。淡々とした空気の中に潜む違和感を拾って楽しめる人向きの作品です。
声優・キャスト情報

監督
久野遥子・山下敦弘の共同監督体制。アニメーション作家である久野遥子さんと、実写映画の監督として知られる山下敦弘さんが手を組んだことで、実写の芝居の質感とアニメーションならではの誇張表現が両立する、他に類を見ない画作りになっています。
原作
いましろたかしによる漫画が原作です。
出演者情報は「声優(役名)」の順番で記載しています。
声優
- 森山未來(あんずちゃん役)
- 五藤希愛(かりん役)
- 青木崇高(哲也役)
- 市川実和子(柚季役)
- 鈴木慶一(おしょーさん役)
特に森山未來さんは、声だけでなくロトスコープの元になる芝居そのものも担っており、あんずちゃんのだらしなくも愛嬌のある挙動は、森山さん自身の身体表現に負うところが大きいはずです。個人的には、この一風変わったキャスティングの妙が本作の説得力を底上げしていると感じました。
音楽・音の作り方

前述のとおり、本作の台詞はすべて実写撮影時に収録した音声がそのまま使われています。そのため劇伴が入る場面と、環境音だけで芝居を聞かせる場面の落差が大きく、静かな場面ほど登場人物の息づかいがよく聞こえてきます。派手に泣かせにくる音楽の使い方ではなく、むしろ音を抜くことで感情を強調するタイプの演出だと感じました。
⚠ 注意
ここからネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
ネタバレあり感想
印象的だったシーン
私がこの映画で一番引っかかったのは、序盤ののんびりした空気の裏に、かりんが草成寺に預けられた背景として、決して手放しに明るいとは言えない家庭の事情が薄く匂わされている点です。誰かが声高に説明するわけではなく、大人たちの会話の端々や表情の間から察するしかない描き方で、この「言わない」演出が終盤までじわじわ効いてきます。ほっこり系の顔をしながら、実は死や別れといった重いテーマをずっと横に置いている映画だと思って観ると、印象がかなり変わってきます。
あんずちゃんが「化け猫」であるという設定自体も、長く生きたものだけが辿り着く異形の姿という意味で、老いや死と地続きの存在です。草成寺というお寺が舞台であることも、単なる田舎の風景としてではなく、弔いや命の終わりが日常に隣り合っている場所として効いていると感じました。
キャラクターについて
かりんは最初こそ都会育ちらしい戸惑いを見せますが、あんずちゃんや、寺の住職であるおしょーさん、町の大人である哲也や柚季との距離が縮まるにつれて、少しずつ表情がやわらいでいきます。この変化を大声で説明しないところが本作らしさで、かりんの一人称というより、周りの大人たちの目線越しにその成長を感じ取る作りになっています。あんずちゃんは最後まで多くを語らない猫ですが、だからこそ、ふとした場面で見せる面倒見のよさが効いてきます。
良かった点・気になった点
良かった点は、ロトスコープならではの生々しい芝居と、説明を最小限に抑えた脚本の呼吸が噛み合っていることです。一方で気になった点として、テンポがかなり緩やかなので、明確なカタルシスを求める人には物足りなく映る可能性があります。伏線の回収も強い驚きを狙うタイプではなく、じわっと納得させる方向なので、そこは好みが分かれると思います。
総評・一言まとめ
ほっこり系のビジュアルと呼び込み文句で油断していると、後半でじわりと重さを感じさせてくる映画です。派手さはないものの、実写ロトスコープという手法そのものが物語のテーマ(老い・別れ・時間の経過)と噛み合っている点を評価して、私の評価は5点中4点です。
まとめ
この記事のまとめ
- ✓ 『化け猫あんずちゃん』は久野遥子・山下敦弘の共同監督による、実写ロトスコープ手法のアニメ映画
- ✓ 声優は森山未來・五藤希愛・青木崇高・市川実和子・鈴木慶一が担当
- ✓ ほっこりした表面の奥に、老いや別れといった重いテーマが静かに流れている作品
のんびりした空気に癒やされたい人にも、表面のほっこりの奥に何かを感じ取りたい人にも、両方の見方で楽しめる作品だと思います。まだ観ていない方はぜひ劇場やサブスクで、あんずちゃんとかりんの奇妙な同居生活を見届けてみてください。