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⚠ 注意(ネタバレを含みます)
本記事では、映画『インターステラー』(2014年公開)の物語の核心に触れるネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。
結論から言うと、映画『インターステラー』のワームホールは、アインシュタインの一般相対性理論のうえでは存在を否定されていない「時空の近道」です。ただし、それを人間が安全に通り抜けられるほど安定させるには、現在の物理学ではまだ実在が確認されていない特殊な物質が必要とされており、現時点での実現は極めて難しいと考えられています。私は大学の理学部物理学科で一般相対性理論の基礎を学んだ立場から、この設定がどこまで科学的な裏付けを持っているのかを、根拠を示しながら本記事で解説します。クリストファー・ノーラン監督が手がけ、脚本には弟のジョナサン・ノーランも名を連ねたこのSF映画(米国2014年11月7日公開、日本公開2014年11月22日、上映時間169分、音楽:ハンス・ジマー)には、物語の転換点として「ワームホール」が登場します。荒廃した地球を離れ、新天地を探す旅に出た宇宙飛行士ジョセフ・クーパー(マシュー・マコノヒー)たちは、このワームホールを通って別の銀河へと向かいます。
『インターステラー』の物語とワームホールの役割
物語の舞台は、環境の悪化によって農作物が育たなくなり、人類の存続が危ぶまれる近未来の地球です。元宇宙飛行士のクーパーは、秘密裏に活動を続けていたNASAのチームに合流し、アメリア・ブランド(アン・ハサウェイ)、そして地球に残る娘マーフィー(ジェシカ・チャステイン)らとともに、人類が移住できる新しい惑星を探す任務に就きます。その旅の出発点となるのが、土星付近に現れたワームホールです。
ワームホールを抜けた先には、超大質量ブラックホール「ガルガンチュア」を中心とする別の銀河が広がっています。ガルガンチュアの強い重力の影響で、その近くの惑星では時間の流れ方が大きく変わり、現地での数時間が地球での数十年に相当するという設定が、物語終盤の重要な要素になっています。ワームホールは、こうした壮大な時間・空間のスケールの旅を成立させるための「入り口」として機能しているわけです。もしこのワームホールが存在しなかったら、光の速さでも到達に何万年とかかる距離を、人類がわずかな航行時間で越えることはできなかったはずで、物語の骨格そのものを支える設定になっています。
ガルガンチュア近傍で時間の流れが変わる理由は「1時間が7年」の解説記事で詳しく解説しています。
そもそもワームホールとは?
ワームホールとは、宇宙空間の二つの異なる地点を結ぶ「ショートカット」のような存在です。アインシュタインの一般相対性理論に基づき、理論上は存在可能とされていますが、現実にはまだ観測されたことはありません。
例えば、紙の両端に穴を開け、その穴同士を折り曲げて近づけると、紙の表面を移動するよりも短い距離で繋がるイメージです。紙の表面をそのまま歩けば遠回りになりますが、折り曲げて穴同士を近づければ、瞬時に反対側へ移動できます。ワームホールも同じように、通常なら光の速さでも途方もない時間がかかる距離を、理論上は大幅に短縮できる「近道」として説明されることが多い概念です。
■ ここがポイント
ワームホールは「空間そのものを折り曲げて二点を近づける」という考え方に基づいています。実際に人や乗り物が通り抜けられるかどうかは、現時点ではあくまで理論上の可能性にとどまります。
ここで、よくある誤解を一つ整理しておきます。ワームホールは、しばしばブラックホールと同じもののように語られますが、理論上の性質は大きく異なります。ブラックホールは、いったん飲み込んだ物質や光を二度と外に出さない「一方通行の天体」であるのに対し、ワームホールは二つの離れた時空をつなぐ「通り抜けられる構造」として理論上提案されているものです。劇中でクルーが通過するワームホールと、その先で待ち受ける超大質量ブラックホール「ガルガンチュア」は、性質の異なる別の天体として描き分けられています。この違いを押さえておくと、劇中の設定がより理解しやすくなります。
劇中に描かれたワームホールの姿
『インターステラー』では、土星付近に突如出現したワームホールが、人類の移住先探索の出発点として描かれます。クーパーたちの探査船は、このワームホールに進入することで、通常の宇宙航行では到達し得ない遠方の銀河系へと一瞬で移動します。
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作品の中でひときわ印象的なのが、ワームホールの入り口が平面の「穴」ではなく、球体として描かれている点です。SF映画では画面の都合上、渦を巻く円盤状のトンネルとして表現されることも多いのですが、本作では理論上考えられているワームホールの形状に近づけ、あえて球状の入り口として視覚化しています。この描写はキップ・ソーン博士の監修のもとでシミュレーションを重ねて作られたとされ、光がワームホールの周囲でどのように曲がって見えるかまで考慮されています。球体のように見える理由は、強い重力場の周囲で光の進路が曲げられる「重力レンズ効果」にあります。ワームホールの背後にある星々の光も、レンズを通したように歪んで届くため、平面の穴ではなく奥行きのある球状の構造として映り込むのです。この重力レンズの効果を忠実に再現しようとした結果、他の多くのSF作品とは一線を画す映像表現になったと言えます。
科学的可能性――キップ・ソーン博士の監修が示すもの
『インターステラー』は、理論物理学者キップ・ソーン博士が科学コンサルタント兼製作総指揮として制作に参加していることで知られています。ソーン博士はブラックホールやワームホールの研究に携わってきた研究者で、映画に登場するワームホールやブラックホール「ガルガンチュア」の光学的な見え方は、博士が提供した計算式をもとに、視覚効果チームが時間をかけてCGで再現したものです。この取り組みは高く評価され、本作は第87回アカデミー賞の視覚効果賞を受賞しています。ちなみにソーン博士は、2017年に重力波の観測に関する功績でノーベル物理学賞を共同受賞しています。理論物理学の第一線で実績を持つ研究者が監修に加わっていたことも、本作の科学描写が単なる想像にとどまらない裏付けの一つです。
ただし、映像として説得力を持って描かれていることと、現実にワームホールを作り出せることとは別の話です。理論上、ワームホールが安定して存在するためには「負のエネルギー」や「エキゾチック物質」と呼ばれる、通常とは性質の異なる物質が必要になるとされています。こうした物質が実際に存在するのか、存在するとしてどう扱えるのかは、現在の物理学でもまだ結論が出ていない領域です。私自身、大学の授業で一般相対性理論の基礎を学んだ際、こうした「エキゾチック物質」はあくまで方程式を成り立たせるための理論的な仮定として扱われ、実在が確認された物質ではないと教わりました。量子力学の世界には、ごく微小なスケールで負のエネルギー密度に似た効果が観測される例もあるとされていますが、ワームホールを安定させられるほどの規模でそれを実現する方法は、今のところ見つかっていません。
とはいえ、理論そのものが完全に否定されているわけではなく、将来的な研究の進展によって新しい知見が得られる可能性は残されています。『インターステラー』が描くワームホール航行がすぐに現実になるわけではありませんが、科学的に筋の通った土台の上に物語を組み立てている点が、本作が公開から年月を経てもなお語られ続ける理由の一つと言えるでしょう。娯楽作品でありながら、こうした理論的な裏付けを大切にする姿勢は、他の宇宙SF作品と比べても際立った特徴です。
物理を学んだ立場から改めて結論を言うと、『インターステラー』のワームホールは、理論的な枠組みとしては一般相対性理論の範囲内にありますが、実現に必要な物質や技術は現在の物理学の手の届く範囲を超えています。だからこそ、この映画は「絵空事」ではなく「理論的には否定されていない未来」として描かれており、その姿勢こそが本作を単なるSF娯楽以上の作品にしていると私は考えています。
ワームホール以外も含めた映画全体の科学検証はインターステラーの科学的背景の徹底解説をご覧ください。
まとめ
『インターステラー』のワームホールは、単なる映像上のギミックではなく、一般相対性理論に基づく理論的な考え方と、キップ・ソーン博士による科学的な監修を土台に描かれたものです。土星付近から別の銀河へ、そしてガルガンチュアの重力による時間の遅れへとつながる一連の設定は、SF的な飛躍でありながら、随所に現実の物理学との接点が用意されています。特に、混同されがちなブラックホールとワームホールの違いを押さえておくと、SF作品としての巧みさがより際立って見えてきます。
この記事のまとめ
- ✓ ワームホールは宇宙の二地点を結ぶ「近道」として理論上考えられている構造
- ✓ 劇中では土星付近に現れ、クーパーたちを別銀河のガルガンチュア近傍へ導く
- ✓ 球体状の入り口の描写はキップ・ソーン博士の監修のもとで再現された
科学的な背景を知ったうえで見返すと、『インターステラー』の宇宙旅行の描写がまた違った角度で楽しめるはずです。