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SF映画で当たり前のように登場する「ワームホール」ですが、ワームホールは実在するのか、理論的にどこまで可能性があるのか、正確に説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。この記事では、物理学を学んだ立場から、ワームホールの理論的な位置づけと発見の現状を整理し、『インターステラー』などの映画描写がどこまで科学的に正しいのかを解説します。
今回の記事の内容
- ワームホールの理論的な定義と仕組み
- 実在が確認されているかどうかの現状
- 『インターステラー』の描写のどこが正確でどこが創作か
そもそもワームホールとは何か?定義をざっくり理解する

ワームホールとは、簡単に言うと「離れた2つの地点を、通常の空間を通らずに直接つなぐ時空のトンネル」のことです。よく使われるたとえが1枚の紙です。紙の上に離れた2点を書き、紙の上を歩いて移動しようとすると距離がかかりますが、紙を折り曲げて2点を重ね、そこに穴を開けてしまえば一瞬で移動できます。この「折り曲げて穴を開ける」というイメージが、ワームホールが時空を短絡させる仕組みに近いものです。
ワームホールという名前自体は、1957年に物理学者ジョン・ホイーラーが名付けたとされています。ただし、その理論的な原型は1935年にアインシュタインとネイサン・ローゼンが発表した論文にさかのぼり、これは「アインシュタイン・ローゼン橋」と呼ばれています。つまりワームホールは、映画のための空想として生まれた言葉ではなく、一般相対性理論の方程式を突き詰めた先に自然に現れてきた構造だという点が出発点になります。
理論的にはどう説明されているのか

ワームホールの理論には、大きく分けて2つの段階があります。それぞれ見ていきましょう。
アインシュタイン・ローゼン橋という出発点
アインシュタインの一般相対性理論の方程式は、実はワームホールのような構造を数学的に許してしまいます。1935年にアインシュタインとローゼンが示したのは、ブラックホールを表す方程式(シュワルツシルト解)を数学的に拡張すると、2つの離れた時空領域をつなぐ「橋」のような構造が現れる、という内容でした。ただしこの橋は不安定で、何かが通り抜けようとした瞬間に潰れてしまう、というのが当初の結論でした。
通過可能にするための条件——エキゾチック物質
1988年、物理学者キップ・ソーンらは、この橋を「通り抜けられる状態」に保つには、通常のプラスのエネルギーではなく、マイナスのエネルギー密度を持つ特殊な物質(エキゾチック物質)でトンネルの入り口を支える必要がある、という計算を示しました。マイナスのエネルギーというと突拍子もなく聞こえますが、量子力学の世界ではカシミール効果と呼ばれる現象でごくわずかなマイナスのエネルギーが実際に観測されています。ただし、ワームホールを安定させられるほどの規模でこれを用意する方法は、現時点で具体的な見通しが立っていません。
■ ここがポイント
ワームホールは一般相対性理論の方程式の上では「禁止」されていません。問題は数式上の可否ではなく、それを支えるエキゾチック物質を現実に用意できるかどうかにあります。
実在は発見されているのか?観測の壁

結論から言うと、2026年時点で、ワームホールが実際に観測された例は一つもありません。理論の枠組みの中では存在を否定されていないものの、観測面ではまだ「見つかっていない仮説」にとどまっている、というのが正確な位置づけです。観測が難しい理由は大きく2つあります。1つは、仮にワームホールが存在しても、光を曲げる性質(重力レンズ効果)がブラックホールと非常によく似ており、区別が難しいこと。もう1つは、そもそも安定したワームホールを維持できるだけのエキゾチック物質が宇宙のどこかに存在するのか自体が分かっていないことです。
ここでよくある誤解を1つ整理しておきます。「ブラックホールに落ちればワームホールを通って別の宇宙に行ける」というイメージが語られることがありますが、これは正確ではありません。ブラックホールの中心にある特異点は、方程式の上では別の時空領域(白色孔)とつながっているように見える瞬間がありますが、この構造は不安定で、何かが通過しようとした瞬間に閉じてしまうと考えられています。現実のブラックホールをワームホール代わりに使って移動する、という描写には今のところ理論的な裏付けがありません。
『インターステラー』のワームホール描写はどこまで正確か

⚠ 注意
この先、映画『インターステラー』の設定に関する記述を含みます。あらすじの核心には触れませんが、未鑑賞の方はご注意ください。
『インターステラー』(2014年)に登場するワームホールは、土星の近くに突如出現し、主人公たちを別の銀河へと導く「入り口」として描かれます。この映画の映像制作には、実際に理論物理学者キップ・ソーンが科学アドバイザーとして参加しており、ワームホールやブラックホールの見た目は一般相対性理論の方程式に基づいて計算・レンダリングされたことで知られています。映像制作チームによる計算結果は、天文学の専門誌に論文として発表されたほどです。劇中でワームホールが平らな穴ではなく、透明な球体のように見える描写も、強い重力によって背後の星の光が曲げられる「重力レンズ効果」を再現した結果であり、この点は科学的にかなり誠実に作られていると言えます。
一方で、創作の部分もはっきりしています。劇中では何者か(人類の未来の姿、あるいは別の知的生命体)がワームホールを意図的に土星付近に設置した、という設定になっていますが、これは物語を成立させるための脚色です。また、登場人物たちがワームホールの中を無事に通過し、強烈な潮汐力を受けずに済んでいる点も、現実の理論が求める「安定化の条件」を都合よく満たした描写と考えられます。安定したワームホールを維持するための物質を人類がどう調達するのかという問題は、映画の中では明確に説明されていません。劇中の描写をさらに詳しく知りたい方は、『インターステラー』のワームホール解説もあわせてご覧ください。
映画館で観た記憶がうっすら残っているという方は、配信サービスで見返しながらワームホールのシーンを確認してみるのもおすすめです。
よくある誤解と、ワームホール研究のこれから

ワームホール研究には、大きく2つの方向性があります。1つは、量子重力理論(量子力学と一般相対性理論を統合する理論)が完成すれば、エキゾチック物質の正体や、ワームホールが安定して存在できる条件がより明確になるのではないか、という期待です。もう1つは、ブラックホールに関する観測技術の向上によって、仮にワームホールのような構造が存在した場合の特徴的なシグナル(通常のブラックホール同士の合体とは異なる重力波のパターンなど)を検出できるかもしれない、という方向性です。実際に、重力波の観測データをもとに、ブラックホールとワームホールのような構造とで波形にわずかな違いが出ないかを調べる研究も進められていると考えられています。
ただし、これらはいずれも研究途上の話であり、近い将来にワームホールの存在が確認される、あるいは完全に否定される、と断言できる段階ではありません。ワームホールは今のところ、理論的には「禁止されていない可能性」であり、観測的には「まだ見つかっていない仮説」という、どっちつかずの位置にあると理解しておくのが正確です。『インターステラー』の時間の流れ方については、インターステラーの時間のずれ解説で詳しく取り上げていますので、あわせてどうぞ。
まとめ

ワームホールは、一般相対性理論の数式の上では否定されていない、魅力的な仮説です。ただし、実際に安定して存在させるためのエキゾチック物質を人類がまだ発見・生成できていないため、現時点で実在が確認された例はありません。『インターステラー』のような映画の描写は、見た目のレンダリングという点ではかなり科学的に誠実に作られている一方、ワームホールを都合よく利用できる部分は物語のための創作だと理解しておくとよいでしょう。
この記事のまとめ
- ✓ ワームホールは一般相対性理論の方程式の上では否定されていない仮説
- ✓ 通過可能にするにはエキゾチック物質(マイナスのエネルギー)が必要とされる
- ✓ 2026年時点で、実際に観測された例は一つもない
- ✓ 『インターステラー』の見た目は科学的、都合の良い通過描写は創作